独特の濃厚な風味と甘い香りで、世界中のコーヒー愛好家を魅了する「ベトナムコーヒー」。その魅力は、個性的な味わいだけでなく、生活に深く根付いた文化や、世界有数の生産・輸出国としての一面にもあります。この記事では、ベトナムコーヒーの基本から、人気の種類、伝統的な淹れ方、現地のコーヒー文化、そして世界市場におけるベトナムコーヒーの重要な役割まで、その全貌を徹底解説します。

1. ベトナムコーヒーとは? その特徴に迫る
ベトナムコーヒーを語る上で欠かせないのが、その独特な特徴です。
主な豆の種類: 主に「ロブスタ種」が使用されます。苦味が強く、カフェイン含有量が多いのが特徴で、濃厚な味わいの源泉となっています。深煎りにされることが多く、チョコレートやナッツのような香ばしい風味も感じられます。

伝統的な抽出器具「フィンフィルター」: アルミやステンレス製の「フィンフィルター(Phin Filter)」をカップの上に直接セットし、粗挽きのコーヒー豆にお湯を注いで、ゆっくりと時間をかけて抽出するのが伝統的なスタイルです。

濃厚な味わいと「コンデンスミルク」: 深煎りロブスタ種とフィンフィルターによる抽出から生まれるコーヒーは、非常に濃厚で力強い苦味を持ちます。この苦味を和らげ、独特の甘みとコクを加えるために「コンデンスミルク(練乳)」をたっぷり使うのがベトナムコーヒーの大きな特徴です。

2. 押さえておきたい!人気のベトナムコーヒーの種類
ベトナムには、様々なスタイルのコーヒーが存在します。代表的なものをいくつかご紹介しましょう。
カフェ・スア・ダー (Cà phê sữa đá / Kafe sua dā): ベトナムコーヒーの代名詞。濃く抽出したコーヒーにコンデンスミルクを加え、たっぷりの氷で冷やして飲みます。「スア」はミルク(コンデンスミルク)、「ダー」は氷を意味します。甘さと苦さの絶妙なハーモニーが楽しめます。

カフェ・デン・ダー (Cà phê đen đá / Kafe den dā): 「デン」は黒を意味するブラックコーヒー。コンデンスミルクは入れず、砂糖を加えるか、ストレートで飲みます。こちらも氷で冷やすのが一般的。コーヒー本来の力強い風味をダイレクトに味わえます。

カフェ・チュン (Cà phê trứng / Kafe chun): ハノイ名物として知られる「エッグコーヒー」。「チュン」は卵を意味し、卵黄、砂糖、コンデンスミルクを泡立てて作るカスタードのようなクリームを、濃いコーヒーの上にのせたものです。「飲むティラミス」とも称され、デザート感覚で楽しめます。

カフェ・コッヅア (Cà phê cốt dừa / Kafe kokkozua): 「コッヅア」はココナッツミルク。コーヒーにココナッツミルクやココナッツアイスクリームなどをブレンドした、トロピカルで甘い風味が人気のコーヒードリンクです。

バック・シウ (Bạc xỉu / Bakku shiu): コーヒーよりもミルク(コンデンスミルクや牛乳)の割合が多い、マイルドな味わいが特徴です。コーヒーの苦味が苦手な方にもおすすめです。

3. ベトナムコーヒーの淹れ方と文化
ベトナムコーヒーの魅力は、その味わいだけでなく、独自の淹れ方や文化にもあります。
フィンフィルターでの淹れ方:

準備するもの
- ベトナムコーヒー粉
- フィン (Fin)
- お湯(90~95℃)
- コンデンスミルク(お好みで)
- カップ
手順
- フィンを予熱します。
日本の補足:カップに直接お湯を注ぎ、フィンをその上に置いて温める方法でも良いでしょう。 - カップにコンデンスミルクを入れます(お好みで)。
- フィンにコーヒー粉を入れます(約大さじ2~3杯)。軽く振って表面をならします。
- 中蓋(プレッサー)をコーヒー粉の上に置き、優しく均等に押し付けます。
- 少量のお湯(約20ml)を注ぎ、コーヒー粉を30秒~1分ほど蒸らします。
- フィンがいっぱいになるまで、ゆっくりとお湯を注ぎます。
- 蓋をして、コーヒーがすべて下に落ちるまで待ちます(約5~7分)。
- コーヒーが落ちきったら、フィンを外します。
- よくかき混ぜてお召し上がりください。氷を入れてアイスコーヒーにしても美味しいです。
ポイント
– コーヒー粉の量やプレッサーの締め具合で濃さを調整できます。
– お湯の温度が高すぎると苦味が出やすくなります。
– このガイドがお役に立てば幸いです。
路上カフェ文化: ベトナムでは、道端に低いプラスチックの椅子とテーブルを並べた「路上カフェ」が至る所に見られます。人々はそこでコーヒーを片手に、友人とおしゃべりをしたり、新聞を読んだり、ただ行き交う人々を眺めたりと、思い思いの時間を過ごします。これはベトナムの日常生活に溶け込んだ大切な文化の一つです。

コミュニケーションのツール: コーヒーは、ベトナムの人々にとって重要なコミュニケーションツールでもあります。仕事の合間や食後など、コーヒーを飲みながら語り合う時間は、人間関係を深める大切なひとときです。
4. 世界市場におけるベトナムコーヒー:生産大国の実力
ベトナムは、個性的なコーヒー文化を持つだけでなく、世界有数のコーヒー生産・輸出国としての顔も持っています。

世界第2位のコーヒー輸出国: ブラジルに次ぎ、ベトナムは長年にわたり世界第2位のコーヒー輸出国としての地位を維持しています。
ロブスタ種では世界最大: 特にロブスタ種の生産・輸出においては、世界最大の国です。ベトナム産ロブスタ種は、その力強い風味と高いカフェイン含有量から、エスプレッソブレンドやインスタントコーヒーの原料として世界中で広く使用されています。
生産量と栽培地域: 年間のコーヒー生産量は約160万トンから180万トンに達し、世界の総生産量において大きな割合を占めています。主な栽培地域は、テイグエン(Tây Nguyên)と呼ばれる中部高原地帯です。
主な輸出品種と輸出市場:
輸出の大部分(約90%以上)をロブスタ種が占めています。
アラビカ種も、ラムドン省やソンラ省など標高の高い冷涼な地域で栽培されており、品質向上と共に輸出額も増加傾向にあります。
主な輸出先は、EU(特にドイツ、イタリアなど)、アメリカ、日本、ロシア、そしてその他アジア諸(韓国、中国など)を含む80以上の国と地域に及びます。

近年の動向と課題:
輸出額の成長: 近年、ベトナムのコーヒー輸出額は目覚ましい成長を遂げており、2023年には過去最高の42億4000万米ドルに達しました。2025年初頭も力強い成長が報告されており、国際市場における価格高騰も追い風となっています。
機会: 自由貿易協定(FTA)の締結拡大や、スペシャルティコーヒー、深加工品への需要増が新たな機会を生んでいます。
課題: 気候変動による干ばつや病害、国際市場での価格変動、品質基準の厳格化、持続可能な生産体制への要求(トレーサビリティ、森林破壊防止など)、そしてベトナムコーヒーの国際的なブランド構築などが課題として挙げられます。また、生豆での輸出割合が高いため、付加価値を高めるための深加工への投資も重要です。
5. お土産としてのベトナムコーヒー
ベトナム旅行の際には、コーヒー関連商品がお土産として人気です。
コーヒー豆: コーヒー豆: 選ぶ際の注意点として、香料やその他の添加物で風味付けされていない、純粋な焙煎豆(ベトナムでは「cà phê rang mộc」カーフェー・ランモックと呼ばれます)を選ぶようにしましょう。
フィンフィルター: 自宅で本格的なベトナムコーヒーを淹れるために。
インスタントコーヒー: 手軽にベトナムコーヒーの味を楽しめるスティックタイプも豊富です。
ベトナムコーヒーは、その濃厚な味わい、コンデンスミルクとの甘いハーモニー、そしてフィンフィルターで淹れる独特のスタイルが魅力です。さらに、活気ある路上カフェ文化から、世界経済に影響を与えるほどの生産・輸出大国としての一面まで、知れば知るほど奥深い世界が広がっています。
ベトナムを訪れる機会があれば、ぜひ本場の路上カフェでゆっくりと一杯のコーヒーを味わってみてください。日本国内でも、ベトナム料理店や専門店でその魅力に触れることができます。この一杯が、あなたにとってベトナムの新たな発見の扉を開くかもしれません。

